ふくしま浜通り国際芸術祭

宣誓

大きな地震が来て、大きな津波が去ったあと、
前触れなく降ってきた放射能は、
音もなく大地を覆い、見えないままに家を奪い、町を奪い、日常を奪っていきました。
あのときから12年。
少しずつ人が戻り商いが戻り、活気づいてきています。

しかし、それ以上の歳月を要するという廃炉への道のりを前にしたとき、  
わたしたちは何を思うのか。
わたしたちに何ができるのか。
できればこの問題から目を背けることなく、
プラスに転換したい。  
隠すことなく強みに変えたい。
逃げるのではなくバネにしたい。
いまある現実と概念を打ち破り、突破したい。
この課題をただの負として扱うのではなく、
一つのコンテンツとして昇華したい。
それを可能にしてくれるものは何か。
恐らくそれは、既存の常識ではない。
理屈でもない。

変動的で不確実、さらに複雑で曖昧なこの時代においてそれでも普遍性と可能性とを併せ持ち、所有する当人でさえ無自覚で無防備な心の奥に触れることができるアートの力を使って、浜通りを未だかつてなくわくわくさせたい。浜通りから世界をわくわくさせたい。

国内史上最悪とされる産業廃棄物投棄により汚染され、ハンセン病の隔離施設があった香川県の島々が瀬戸内国際芸術祭の開催によりその復権を成し遂げたように。

70年代のオイルショックや産業構造の転換により衰退したリンツの街が、アルス・エレクトロニカの開催によりその再建に加え、新たな文化と産業を生み出すことに成功したように。
浜通りで芸術祭を開催したい。
そう思っています。


人類史上けっこう最悪かつ最難関。
ある意味世界最先端の課題を抱え、誰もが知っている FUKUSHIMA で開催するんですから、
もちろんターゲットは世界。
地球上に住む全人類です。

ふくしま浜通り国際芸術祭実行委員会準備室
堀川 静

負の遺産を凌ぐ唯一無二の魅力と価値を創出する。

廃炉が完了しない限り、浜通りには負の印象が付き纏います。
瀬戸内国際芸術祭が開催されている香川県の島々もかつてはそうでした。

芸術祭期間中10万人以上が来場する豊島は国内史上最悪とされる産業廃棄物不法投棄事件が起きた島です。現在もその処理は完了しておらず、地下水の約70%以上が基準値を超える有害物質に汚染されたままの状態になっていることを知る人はそう多くないでしょう。
芸術祭の中心地である直島もつい5年前までそれらの廃棄物を焼却・溶融する中間処理施設があり、一歩踏み入ると現在もその面影を残す建物が数多く存在します。
しかし、処理施設稼働中でも芸術祭開催時には約30万人もの人が訪れ賑わいました。
ハンセン病の隔離病棟があった大島など、ほかにも数々の課題を抱える瀬戸内海の12の島と2つの港を会場とする瀬戸内国際芸術祭の来場者数は回を重ねるごとに増加し、その記録を更新しています。

我らが浜通りのどうやら険しくまだまだ続くらしい廃炉への道のりを考えると、それをないものとして過ごすわけにはいきせん。無論、隠しようもありません。
ならば、それ以上に人々の関心を集める価値と魅力を生み出すしかありません。

メルトダウンした原発以上のインパクトとなると、並大抵のことでは到底太刀打ちできません。しかし、それをバネにすることができたらそれは相当なインパクトを生み出し、絶大な魅力となり、この土地の揺るぎのない価値となるはずです。

浜通りに来て、知って、楽しんでもらう。

瀬戸内国際芸術祭の例でいうと、来場者の約3人に1人が芸術祭に加え、香川県内〜近隣の観光地を訪れるというデータが示しているように、浜通りで芸術祭を開催すること、そして主要なアート作品を常設することは、福島県全域の観光者数の増加に繋がると期待できます。
開催エリアを双葉郡〜浜通りとすることで、滞在時間や巡回エリアを増やし、飲食 / 観光 / 宿泊 の需要を伸ばすことは、本芸術祭の重要な目的の一つであり本芸術祭を広域で開催する理由ともなっています。
たとえば「Fukushima 」とGoogle画像検索した結果も、そう。芸術祭の開催により、変えられると思っています。

Fukushima を「いつか行ってみたい」場所にする。

福島県〜浜通りを、世界中の誰もが「いつか行ってみたい」場所にすることは、ふくしま浜通り国際芸術祭の重要なねらいのひとつです。
最近になってまた地震が頻発していることは、都心に住む人々においてさらなる不安要素として加わり、その足をまた遠ざけてしまっていることは避けられない事実でしょう。
一人でも多くの人にふくしま、浜通りに来てもらいたいと思っています。
来場者数は可能な限り増やしたいと思います。
しかし、本芸術祭は今すぐには来ない、来られない、いまのところ来たいと思う理由が見当たらない人たちにもアプローチします。
メイン作品を屋外作品とすることで、浜通りの風景が季節と共にうつろう様をその背景とし、浜通りの風景も同時に作品の一つとして見せることで、浜通りは汚れてはいない。この土地はこんなにも美しいのだということを伝えたいと思っています。
各メディア、SNSを通じ写真や動画で発信し、いますぐには行けないけど、ここにしかない光景を見に「いつか行ってみたい場所」として、まずは認識してもらうことからはじめます。
そうすることで、ネガティブな印象しかなかったふくしま浜通りが、いつしかみんなの憧れの場所となることは大きなねらいであり、ふくしまは浜通りの未来を決める上で重要なステップだと思っています。

いつか行きたい / 行ってみたい=ポジティブに転換

この土地を誇りに思ってもらう。

浜通りに住んでいる子どもたちはもちろん、全国に散らばった福島県出身の子どもたちに、
「これがわたしの生まれた町なの」「僕のお父さんが、お母さんが、おじいちゃんが、おばあちゃんが生まれ育った場所なんだ」と、負い目を感じることなく、隠すことなく、堂々と自分から話したくなる場所にしたい。そして、それを誇りに思ってほしい。
そう思っています。

子どもたちに託すものが、廃炉という負の遺産だけじゃ申し訳なさ過ぎます。それとセットと言ってはなんですが、加えてそれ以上にとんでもなく魅力的かつ貨幣や通貨のように変動しない価値を持つ一流のアート作品を、芸術祭という祭典を贈りたい。後世に残したい。

もちろん、芸術祭の開催は未来を生きる子どもたちのためであるのと同時に、いまを生きる大人たちのものでもあります。

住んでいるみんなが楽しめる。帰ってきたみんなも楽しめる。初めて来た人も楽しめる。
もうここには戻って来られないおじいちゃんおばあちゃんも、テレビの前で、あるいは新聞で、生まれ故郷が再び陽に当たったhappyな姿を目撃してもらいたいと思っています。

ふくしまの問題を、自分ごとにしてもらう。

世界中の人と知恵と興味と憧れをここに集めたいと思っています。
一人でも多くの人を、浜通りに集め、興味を持ってもらい、自分ごとにしてもらうことで、芸術祭の、ひいては浜通りにある課題をも、共に楽しみ、ときに共に涙しながら解決に向けて進んでいけるような仲間を増やしていきたいと思っています。
瀬戸内国際芸術祭には「こえび隊」、大地の芸術祭には「こへび隊」と呼ばれるサポーターがいます。彼らは、いわゆるボランティアのことなのですが、ボランティアとは言わずにサポーターと呼ぶことで、当事者意識を高め、外から応援するだけでなく、共に支え合う仲間としての関係性を築きやすくしているところが大きなポイントです。
世代やジャンル、国籍を問わず募集し、これまで越後妻有には3,000人以上、瀬戸内にはなんと40,000人以上のサポーターが集まりました。
国内外から集まった幅広い層のサポーターは芸術祭を通じ、開催にあたっての準備や運営、作品のメンテナンスだけでなく、地元のお祭りや催事、さらには田植えや稲刈りまで手伝ってくれています。もちろんそこまでサポートしてもらうには、それなりの時間を共有し、交友関係・信頼関係を築いてからではありますが、地域における芸術祭の素晴らしさ、魅力はここにあると思っています。
浜通りのことを自分ごととして活動してくれるサポーターを、浜通りの仲間を、浜通り以外にも増やせたら、それは間違いなく浜通りの強みとなるでしょう。
浜通りのサポーターを一人でも多く増やし、浜通りのみなさんと、浜通りを想ってくれるみなさんとで共につくる国際芸術祭に育てていけたらと思っています。

アートってなんだ?って人も楽しめる。

ふくしま浜通り国際芸術祭は、浜通りの人が一番に楽しめる祭典にしたいと思っています。
ふくしま浜通り国際芸術祭が目指しているのは、地元に笑顔を増やすこと。
おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、若者、子ども、老若男女問わずみんなに楽しんでもらうことです。
たとえば、芸術祭を開催した結果、瀬戸内では交流人口が増えただけでなく移住人口も増加し、休校していた小学校が再開するという奇跡が起きました。
芸術祭の開催で期待しているのは、経済効果だけでなくそんな効果です。
加えてもう一つ興味深いエピソードで言うと、島に住む70歳の男性が、サポーターとして島に来ていた若い女性と結婚したという夢のような(嘘のような!)お話もあります。

アートを軸に、本来交わるはずのなかった人と人とが出会うことによって想像もつかない化学反応が起きるのも芸術祭の魅力です。芸術祭による地域活性というより、アートを軸とした交流人口・関係人口増加による地域活性と言う方が正しいかもしれません。
アーティスト・イン・レジデンスはもちろん、地元の小・中学生や県内の高校・大学生との共同アート制作やワークショップ、芸術祭のPRや運営などのアイデアを募集したり、ミーティングに参加してもらったり、来場者やサポーターたちが農業漁業体験するなかで、訪れる人も迎える人も両者が楽しんで、相互に刺激を与え合い受け合いながら、縦にも横にも繋がりを広げ、さらに強い絆として、浜通りからふくしまを盛り上げていけたらと思っています。